日高央の「今さら聴けないルーツを掘る旅」 vol.6

Vol.6 Theme : 「若者には激しく、老人には優しさを

 

 ここ数年、アメリカ発祥のレコ屋盛り上げイベントRecord Store Day(レコード・ストア・デイ。以下RSD)が盛り上がりを見せ、ここ日本でもインディーを中心にアナログ7インチをリリースするアーティストが増えてきましたが(FRONTIER BACKYARDやCOMEBACK MY DAUGHTERS等々)、おかげで本国アメリカではCDの売り上げを抜く勢いでアナログの売り上げが右肩上がりになっているようで、本当に羨ましい限りです。

 そしてそんな現象の中でとても嬉しいのは、アナログで育ったアーティストの新作が7インチでリリースされる事によって、同世代も楽しめるし、若年層が新鮮なリアクションでもってそれを迎え入れてくれる事です。その最たる例がFaith No More(フェイス・ノー・モア。以下FNM)ではないでしょうか。

 82年の結成当時は、なんとコートニー・ラブ(HoleのVo.にしてご存知カート・コバーンの妻)がVo.を担当していたこともあるそうですが、男性Vo.になってから2枚のアルバムを発表。しかし知名度がグッと上がったのは、88年に現在のVo.であるマイク・パットンが加入してからの事で、彼が加入してからのシングル「Epic」が大ヒットしたからでした。

 

『The Real Thing』

 

 

 元々はミスター・バングルという変態的なミクスチャーBANDのVo.だった彼が、割と真っ当なミクスチャーBANDであるFNMに加入した事で、それぞれのパーソナリティが奇跡的に合致。メタルやPUNKとしては奇抜だし、ミクスチャーとしても毒々しいサウンドだったものの、派手な衣装やパフォーマンス、そして何よりFNMが本来持っていたPOPセンスが、パットンの高い歌唱力や表現力(全裸や放尿も厭わない過激さ)と合わさって一気に爆発したのでした。

 その後も傑作アルバム『Angel Dust』で世界的にブレイクし、特にシングル「Midlife Crisis」における静と動の表現力は、当時のスーパー・グループであったニルヴァーナにも肉迫する支持を得て、その後のラウドROCKやヘヴィROCK勢への影響も計り知れないほどでした。タイトルを直訳すると「更年期障害」という独特な歌詞の世界観も秀逸で、人間の生理的な現象を世間や社会の問題点として比喩してみせるパットン独自のセンスがキッズから音楽通までを唸らせつつ、ここ日本ではなかなかその魅力が伝わりきらなかった一因でもあったのかと思います。基本ダークな世界観なのですが、PVやLIVEでのユーモアも交えた表現力や構築力は、もしかしたらヴィジュアル系のBANDこそ参考にすべきなのかもしれません。

 

 

『Angel Dust』

 

98年には解散してしまったFNMですが、2009年の再結成以降は不定期ながらも精力的に活動を再開し、特にここ数年はシングルを発表し続け、遂に今年の5月には18年振りのニュー・アルバム発売がアナウンスされました。メンバーの平均年齢も50歳を超えた事で、アナログから現在のMP3データでやり取りする時代を見続けてきただけに、サウンドの深みや表現力の豊かさが、流石に若手BANDにはない魅力を放っています。シングルも配信だけでなく、限定アナログ7インチでもリリースしてくれるので、ニュースクールなキッズ達には新鮮に、そして我々オールドスクーラーな世代にとっては、とても優しく嬉しく響いてきます。機会があれば是非ご一聴をお薦めします。

 
 

 
 
【日高央 プロフィール】
 
ひだか・とおる:1968年生まれ、千葉県出身。1997年BEAT CRUSADERSとして活動開始。2004年、メジャーレーベルに移籍。シングル「HIT IN THE USA」がアニメ『BECK』のオープニングテーマに起用されたことをきっかけにヒット。2010年に解散。ソロやMONOBRIGHTへの参加を経て、2012年12月にTHE STARBEMSを結成。2014年11月に2ndアルバム『Vanishing City』をリリースした。